目次
試合での緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策
試合中は脱水のリスクが高くなる
運動中、効果的に糖質を補給するには
試合期の食生活
試合当日の食生活
軽食・補食・サプリメントの活用
試合期の下痢と便秘対策
試合に向けて、「最高のパフォーマンスを発揮するために必要な栄養管理」とは、「食」に関する不安材料を解消する栄養管理ともいえます。
試合での食に関する不安材料には、緊張・興奮による消化・吸収の抑制、食欲不振あるいは亢進、試合中のエネルギー不足(俗にいう「ガス欠」)、脱水があります。これらの不安材料を解消するための栄養管理が必要です。
緊張や興奮は、試合当日や試合中だけでなく、試合前から始まることも多いです。緊張や興奮をしない方がよいかというとそうではないですし、自分の意志でどうにかなるものでもありません。だからといって対処しないでいるよりも、準備して対策を立てて、実行したいものです。試合前・中は「いつもだったら」という言葉が通用しない状態になります。
緊張や興奮は、経験によって軽減されます。「初めての大会」から「2回目の大会」になれば、どのくらい緊張や興奮するかがわかるので、対策を考えてから試合に臨めるようになります。2回目以降は、経験をもとに対策を立てて臨むことによって、「自分のパフォーマンス」を発揮できるようになります。
①消化・吸収の抑制
運動することにより交感神経が優位になり、消化・吸収が抑制されます。試合前や試合中は、緊張や興奮が加わり、さらに消化・吸収は抑制されます。
緊張や興奮によってどのくらい消化・吸収に影響があるかはわかりません。わからないからこそ、今までの試合での状況・状態と経験から、推測して対策を立てることになります。
消化が抑制されると、症状として、胃もたれや膨満感、吐き気、下痢などの消化管症状が起きます。消化されなければ、吸収されないので、消化の状態に応じて吸収量が決まります。そこで、試合前や試合当日の食事は、消化が良いものにするという対策を立てます。バランスのよい食事を維持した状態で、消化をよくすることがポイントです。
また、消化の第一段階となる「よく噛んで」食べることも必要となります。このため、よく噛むことができない料理は避けたいです。消化のよい食事にしてよく噛んで食べても、消化がうまくいかない場合には、消化剤を利用することもあります。また、栄養状態を悪くしないためにサプリメントで補うこともあります。
②食欲不振あるいは亢進
緊張や興奮によって、食欲不振あるいは亢進が起こることがあります。食欲不振は、食べたくならないので、長時間食べないでいるタイプと、食事はするものの食べる量が少なくなるタイプがあります。消費エネルギーと摂取エネルギーのバランスがとれているのであればよいのですが、そのバランスが崩れると疲労が抜けなかったり、免疫力が低下して感染症のリスクが高くなったりします。またエネルギー不足になった場合、体重減少(特に筋肉量の減少)が起こることが多いです。
対処法としては、食べる量を最初から設定しておいて、食べることができなければ、どうすれば食べることができるのかを考えて行動します。
緊張や興奮によって食欲が増す場合もあります。興奮をどこにぶつけてよいかわからないときに、「動き回る」「おしゃべりになる」「人にちょっかいを出す」など、さまざまな人がいますが、それが「食」にでてくる人もいます。
この場合、口の中に常に何か入っていて、食べ続けているタイプと、いつもよりも食事をたくさんとってしまうタイプ、試合前ギリギリまで食べているタイプがあります。食べ続けているタイプは、飴などをいつもなめていたり、甘い飲料を飲み続けていたりします。エネルギー過剰の状態になれば体重は増加します。あるいは甘いものをいつも食べているのでお腹がすかず、食事をうまくとることができないため体重減少や体調不良を訴えることになります。
普段以上に食事をたくさんとってしまうタイプは、エネルギー過剰で太ったり、食べ過ぎて下痢をしたり、動きが重くなったりします。試合直前まで食べているタイプは、興奮状態のときに「食べると落ち着く」という傾向があります。
身体のアップ後、試合開始直前に甘いものを摂取し、血糖値の高い状態で試合に臨めば身体の動きは悪くなり、パフォーマンスは落ちます。お腹が空いてもアップ後は何も食べないで本番に臨んだ方が調子がよかったという事例は多いです。
「試合開始の直前まで何か糖分を補給しておけば試合の後半でいいパフォーマンスができる」など、現場ではいろいろな神話がささやかれていますが、意味がなく、パフォーマンスに悪影響になることも多いです。
③試合中のエネルギー不足(ガス欠)
「試合中にガス欠になって後半のパフォーマンスが落ちた」といことはよくききます。練習中よりも試合中の方が運動量は少ない傾向があるにもかかわらず、なぜ、試合中にガス欠が起こるのでしょうか。理由はいくつかあります。
1つは試合時間の延長や試合開始時刻の遅延による糖質不足です。試合が長引いたりというように予想以上に試合時間が長くなる場合には、グリコーゲンが枯渇状態となり、糖質を中心としたエネルギーが不足します。また、試合の開始時刻が遅延する場合には、同様にエネルギー不足になります。
このように試合では何が起こるかわからないため、事前に糖質の貯蔵量を多くしておき、ガス欠にならないように予防する「グリコーゲンローディング法」という方法もあります。また、試合前に補食を食べることも予防になります。
試合中にガス欠になるもう1つの理由が、緊張・興奮によってエネルギーの必要量が増加します。緊張・興奮すると、消化・吸収が抑制されるだけでなく、身体に力が入ります。例えば、ランナーが試合中、何人かに抜かれたりすると興奮して、肩に力が入ることがあります。走るという運動だけではなく、肩が緊張することによって、肩で使うエネルギー量が多くなります。考えるのに頭も使えば、糖質の必要量がさらに増加します。緊張や興奮による変化で呼吸数が多くなるのは、酸素の必要量が多くなっていることを示します。それを考えると、全身で使うエネルギー量が多くなるのがお分かりいただけるでしょう。計算することはできませんが、試合中は想像以上にエネルギーを使っているのです。例えば、試合の序盤なのに、呼吸数が多くなり、汗をだらだらかいていると「緊張・興奮によるエネルギーの消費が激しいから、ハーフタイム中のエネルギー補給を多めにしなくては!!」となります。
試合中の緊張や興奮によって、エネルギー必要量は増加します。試合中、どのような状況になっても冷静に対処できるようにメンタルトレーニングをしておくことが必要とも思いますが、栄養管理の観点からは、何が起こっても糖質不足、エネルギー不足にならないように対策していかないといけません。
練習の活動時に比べ、試合では脱水についてあまり考えないこともあるかもしれません。しかし、練習中は脱水のリスクがとても高いのです。試合中に水分補給を有効にとり入れることにより、脱水のリスクを減らすだけではなく、メンタル面にも効果をもたらします。
運動中は温熱性発汗によって汗が出ます。さらに試合期に緊張や興奮が加わると、精神性発汗によっても汗をかきます。つまり通常の練習よりも汗の量は多くなります。また、精神性発汗による汗は、エクリン腺だけでなく、アポクリン線からも多く分泌されます。アポクリン線からの汗は、糖質や脂質を含み、汗の成分が濃くなります。通常の練習よりも発汗量が多くなるうえ、汗の成分も濃くなるため、脱水と熱中症のリスクが高くなります。興奮や緊張の度合いが高ければ、リスクも上昇します。試合によっても、緊張や興奮の度合いは変わります。消化・吸収同様に「初めて」の試合は特に注意して、水分補給を実行したいです。
また、緊張や興奮によって口が乾いたり、ねばついたりすることを経験した人も多いと思います。食べ物(想像を含む)由来だと、梅干を想像したときのように、さらさらした唾液ですが、緊張や興奮した状態ではムチンという成分を多く含むねばついた唾液が分泌されます。
試合前から脱水の予防をしておくと、緊張や興奮を加味したうえで試合中の水分補給計画を立てて実行することが重要になります。
普段の練習中から試合を想定した飲み方にすることも重要です。例えば、陸上の10000mの試合で、5000m以降に、「水」の提供があるとします。この場合、練習のときも、練習開始15分後くらいからスポーツドリンクではなく「水」の補給を始めます。試合終了時間に近い練習開始35分経過後からは、スポーツドリンクの水分補給を始めます。練習の時はいつもスポーツドリンクで、試合の時だけ「水」になると、いつもと違う状況になり、不安材料になってしまいます。
また、普段生活している場所から気温が5℃以上高くなる試合場所に移動した際には、発汗量に対して水分補給量が足りなくなり便秘のリスクが高くなるので、注意が必要です。
さらに、試合中の水分補給は、脱水や熱中症対策以外の効果があります。肩に力を入れたまま、水を飲んでみてください。スムーズに飲めないことを感じると思います。つまり水分補給の行為には、リラックス作用があるのです。飲むことで肩の力が抜けて、気持ちを切り替えられるというメンタル面の効果もあります。
運動中のガス欠を防止するためには、運動中に糖質を中心としたエネルギー補給をすることが必要です。しかし、「運動しながら食べられない」「運動しているときに急激に血糖値を上昇させるとパフォーマンスが落ちる」という理由から、運動中には、熱中症予防のための水分補給を優先させ、糖質の補給は積極にされてきませんでした。このため、運動前にできる限りグリコーゲンを貯蓄させたり、運動後の就寝前にGIの低いものを食べて寝ている間も糖の供給を促したり(胃が弱い選手にこの方法はできない)して、対応してきました。
しかし、2015年から活動している「一般社団法人スローカロリー研究会」で、運動中の補給にイソマルツロース(商品名パラチノース®)という糖が有効であることを発表しました。この研究会は、急激な血糖の上昇をできるだけ避けた食生活を送ることにより、生活習慣病の予防や健康の維持・増進などを目指していくとり組みをしています。具体的には、GIの低いものの活用や食べ合わせによってGIを低くすることや、スローカロリーの実現に向けて開発されているさまざまな食品の活用について、研究や啓発を進めている。その中で、出会ったのが「パラチノース®」です。
パラチノース®は普通の砂糖と同じエネルギーで1gあたり4kcal、甘みはショ糖の半分程度の糖です。特徴は唾液、胃酸、および膵液の消化作用を受けず、小腸に局在する「イソマルターゼ」という酵素により、ほとんど全てがグルコースとフルクトースに分解されます。このため、急激な血糖値の上昇を起こしにくいです。また、普通の砂糖と同じで食物繊維のように働くことはないので、下痢を引き起こす可能性は極めて低いです。
そこで運動中にパラチノース®をスポーツドリンクの中に追加して摂取したところ、「後半にパフォーマンスが落ちることがなくなる」「練習量の増加ができるようになる」「疲労の軽減につながる」といった効果がありました。
パラチノース®は現在、練習中だけではなく、試合中やパラリンピックアスリートの血糖コントロールなどにも活用の幅を広げています。ただし、エネルギーの調整をしながら使わなくてはいけないです。
試合期に守りたい食事の基本ルール
試合前3日前から試合当日に向けては「高糖質・低脂肪・タンパク質そのままの食事」を基本とします。その理由は2つあり、1つはプチ・グリコーゲンローディングをしてグリコーゲン量を高めにしておくためです。もう1つは、緊張や興奮によって消化・吸収が抑制されますが、糖質は脂質に比べて消化しやすいためです。
「高糖質・低脂肪・タンパク質そのままの食事」とは、一般的にいう「高糖質食」を指します。「高糖質食」とは、1日の総エネルギー摂取量の70%以上を糖質(主にデンプン)からとり、脂質の摂取は15%以下、タンパク質は15%前後の比率を維持する食事のことをいいます。「高糖質食」というと、穀物を大量に食べれば成り立つと考えられがちですが、より詳細に記載すると「高糖質・低脂肪・タンパク質そのままの食事」となります。
この食事をさらに具体的に解説すると通常ではトンカツを食べるところをローストポークに変えてかつご飯の量を増やします。カツ丼を食べるところを親子丼に変えてかつおにぎりを追加するようにして糖質を増やし、脂質を減らし、タンパク質はそのままの食事が完成します。
●揚げ物(唐揚げ、天ぷら、カツ、コロッケ、さつま揚げ、フライなど)、ルーを使った料理(カレーライス、ハヤシライス、グラタン、シチューなど)、マヨネーズ和え・焼き、あんかけ類(中華丼、麻婆豆腐など)など油を多く使う料理や油を多く含む食品(ベーコンや肉の脂身など)は、極力なくします(→低脂肪)。
●油の使用が少ない調理法にすることにより、油でとっていたエネルギーを主食(めし、麺、パスタ、パンなど)に替えて多めにとります(→高糖質)。
●肉、魚、卵、豆・豆製品、乳・乳製品は、いつも通りしっかり食べます(タンパク質そのまま)。
●副菜(野菜や海藻、キノコなど)と果物は、いつも通り食べます。
【高糖質・低脂肪・タンパク質そのままの食事】には、注意・留意点もあります。
①コンデイションの調整で運動量が変われば必要となるエネルギー量も変わります。このため、運動量に合わせたエネルギーの摂取をする必要があります。ただし、緊張や興奮によって消費されるエネルギー量も考慮しないと、試合前に体重が減少し、パフォーマンスに影響することになるので注意が必要です。
②試合前は興奮や緊張により、消化・吸収が抑制されます。体内での消化の第一段階は、「よく噛む」ことです。よく噛まなくても食べられる料理は避けなければなりません。例えば、ルーを使ったカレーライスや麺類などです。これらの料理は、早食いにもなるので避けましょう。
③試合前に食欲不振になった場合には、香辛料を活用するといいです。ただし、使い過ぎると、胃腸の状態を悪くするので注意が必要です。例えば、カレーライスは油を多く使う料理であり、早食いになるので避けるべきなのですが、カレーの香辛料は食欲をそそります。そこで、できる限りルーはよけて具だけをめしにかけてよく噛んで食べれば、問題ないのです。上手に活用すると、カレーは試合前に食べてよい料理になります。
④食塩は、いつも通り食べていれば、だいたいいつもの量が摂取されます。運動量が減ることにより、食事量が減れば減塩になります。食塩の摂取量が極端に少なくなると食欲が減退することもあるので、極端に減らさないようにしましょう。また、食塩を普段よりもとり過ぎると、体内の水分量が増加して、体重が増えることがあるので、注意が必要です。
⑤食物繊維については、いつも食べている量が腸には適量です。このため、いつも以上に食べればガスの発生を促進することになりますが、いつもより少なければ便秘になることもあります。そこで、いつもと変わらない量を食べることが基本です。試合前だからといってむやみに食物繊維の摂取量を少なくする必要はありません。試合当日、下痢ぎみになるなどの不安がある場合には、摂取タイミングや量を調整するとよいでしょう。
⑥脂肪やタンパク質など、消化に時間のかかるものものを大量に食べることは避けましょう。
⑦補食を活用しましょう。主食の量が増えることにより、食事のかさも増えます。食べきれない状況になったり、食欲が落ちて1食に食べられる量が少なくなったりした場合には、補食をとるといいです。
⑧状況によってはサプリメントを活用しましょう。
⑨普段食べなれていない食事や食品は食べないこと。例えば、自国では朝食にめしかパンか食べているのに、海外遠征でオートミールを食べてみたら、すぐにお腹がすいてしまって午前中のパフォーマンスの質が悪くなるといったことが考えられます。このように、食べなれていないものは、何が起こるかわからないので試合前には避けましょう。
「スタミナをつける」「試合に勝つ」といったげん担ぎの理由で、試合前に焼き肉やカツを食べさせる指導者がいるようですが、高糖質・低脂肪とはならず、肉を多く食べることで消化に時間と負担がかかり、競技力にマイナスの影響を及ぼす可能性があるので、避けましょう。
試合当日は、試合開始時刻、試合時間、試合間隔など考慮しなくてはいけない項目が増え、食生活からのアプローチが必要になります。試合で最大限の実力を発揮するための「試合当日食生活ルール」を作っておくことをお勧めします。
1⃣試合当日の食事・補食のタイミング
試合当日の食事・補食のタイミングは、試合開始時刻に左右されます。試合開始の3時間から2時間半前までに食べ終わっておくことが原則です。その理由は、食後に血糖値が上がり、空腹の状態まで下がるのに約2時間かかるためです。血糖値が高い状態で運動すると、乳酸がたまりやすくなり、身体が重いと感じることがあります。このため、血糖値がある程度落ち着いた状態でウォーミングアップを始めていきたいです。ウォーミングアップを試合開始の約1時間前からすることを考えると、食事は試合が開始される3時間から2時間半までに食べ終わっておく必要があります。
食後すぐに動くと、身体が重いと感じたり、コンディションが悪いと感じたりすることを経験した人も多いと思います。運動することにより消化・吸収が抑制されることだけでなく、血糖値が上昇した状態で運動するとエネルギー代謝が効率よく働かず、だるい、重いなどの体感が起こることも多いです。
ただし、試合時間が長く、試合途中での栄養補給ができないことがあらかじめわかっているときには、例外として試合開始直前までに食事や補食をすることもあります。この場合、試合で戦う他の選手も同じ条件となることから、そのような状況の中でいかに良好なコンディションで戦うことができるかを計画しましょう。
次に、食事をしてから試合までの間は、計画通りに補食でつなぎます。興奮などから、考えていた以上に消耗が激しい場合には、追加で補食を入れていきます。
2⃣試合当日の食事内容と量
試合当日と試合直前の食事は、バランスの整った「高糖質・低脂肪・タンパク質そのままの食事」となります。緊張や興奮の程度によって、より消化のよい調理法や材料にしたり、補食を活用したり、サプリメントで補ったりします。食物繊維の量を控えたり、下痢を引き起こしそうな食品については避けたりすることもあります。食事内容は、今までの経験をもとに、個別性の高い調整が必要です。また、水分補給については、できる限り体内水分貯蔵量を100%にすることを考えて行動します。
食べる量の原則は、「試合が終わったときに、ちょっとお腹がすいてきた(小腹がすいた!)となるくらいの量を食べる」です。通常、朝食を食べるときには、午前中に何をするかを考慮しながら昼食までもつように食べる量を決めると思います。試合にときには、試合中に最良のパフォーマンスを維持することを最優先とするため、次の食事までもつようにではなく、試合が終わったときをイメージして食べるのです。また、決めていた食事量が多い、あるいは少ないと感じたときは、身体の声に耳を傾け、その情報を精査して、計画の変更をします。
3⃣試合中の補給
試合中にできることといえば、水分補給と休憩時に補食をとるくらいです。水分補給では、脱水・熱中症予防のために、のどが渇いたという知らせがくる前に機会をみて少しずつ飲みます。ただし、機会が少ない場合には、1回に飲む量を多めにします。飲む内容や量は、練習のときと同じ考えになります。また、緊張や興奮を和らげるために水分補給をうまく利用することもあります。
休憩中の補食については、競技種目によって、どのくらい補給が必要か、どのくらい食べることができるのか、どのくらい食べる時間があるのかを見定めたうえで、個々の状況を踏まえて計画し、実行します。しかし、試合の流れなどから、休憩時に状況を判断し、計画を変更して対応することも多々あります。
4⃣試合直後の補給
試合後の補給は、試合で失ったエネルギーや栄養素、水分を回復させるために重要です。基本的には通常の練習のときと同じ考え方をすればよく、練習後の栄養補給ルールが作成されて入れば、そのルールに従って進めればいいです。試合が連続して、あるいは、連日続くときには、いつものルールをよりアップグレードさせて対応することもあります。
ポイントとしては、筋肉や肝臓のグリコーゲン回復のためにドリンクでの糖質補給をできるだけ早く実施することです。練習では、「すぐに」というと、クーリングダウンの前に摂取というイメージを指します。試合では、試合が終了した直後に、荷物などを整理しているときに摂取するイメージです。ロッカールームに戻ってゆっくりしてから補給するのでは遅いのです。
特に、連戦、連日の場合は、直後に補給する方がグリコーゲンの回復が早いです。グリコーゲンは24時間かけて回復するというデータを根拠に考えると、1試合目より2試合目、2試合目より3試合目と試合が進むにしたがってグリコーゲン量が少ない状態で戦うことになります。次の試合が翌日であっても、その開始時刻が1試合目の終了時刻から24時間以上あいてなければ、1試合目と同じグリコーゲンの状況で戦うことはできません。この状況に対応するために、試合前からグリコーゲン量を多く蓄えておくこと、試合中にできるだけ糖質を補給してグリコーゲンを使わないようにすること、試合直後に糖質を補給して早く回復させることを行います。
試合期には、軽食・補食・補食・サプリメントの活用が必須となります。なぜなら、通常の3食を規則正しくとれなくなり、「試合開始時刻を中心に食事が組まれる」「緊張・興奮によって予想できない消耗に対応しなくてはならない」「最良のパフォーマンスを最優先し、試合前の食べる量も、試合終了時点で小腹が空いている程度にするため、食事からだけではエネルギーや栄養素の十分な補給ができない状況となる」といったことから軽食・補食・サプリメントを活用しなくては補えないからです。
軽食は、ガス欠防止とグリコーゲン補充のための糖質補給を目的に、消化のよい料理や食品で構成する食事のことです。補食は、試合までに補給しておきたいエネルギー、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラルをとることです。軽食ではおにぎり、サンドイッチカ(ハムやジャム、腹持ちをよくしたいときにはチーズ)、うどん、スパゲッティー(具があまり入ってないもの)、補食では、果物、果汁100%ジュース、野菜ジュース、プリン、カステラなど、美味しくて、緊張していても食べることができるものを準備します。タンパク質を補給したいときには、ポタージュスープなどの牛乳の入ったスープやヨーグルト、プリンなどを用意することもあります。嗜好なども考慮して考えます。また、栄養補助食品も活用します。
試合までにどのくらい時間があるかによって食べる内容は変わってきます。基本的には、次のようになります。
試合の2時間以上前:軽食(上記)で紹介した料理や食品
試合の1~2時間前:固形(ブロック)やゼリータイプの栄養補助食品
試合の1時間~30分前:果物、ゼリータイプやドリンクタイプの栄養補助食品か果汁100ジュース
試合前30分以内:水
試合中の休憩時間にすぐに吸収したいのであればドリンクタイプ、試合中の腹持ちを考えるならばゼリーや固形タイプを選びます。何を食べるかは個人の状況に応じて調整しましょう。
サプリメントは、試合中、エネルギー代謝の効率が悪くならないようにビタミンB群を中心としたビタミン補給、酸化ストレスに対応するためのビタミンAやCの補給、エネルギー代謝にアミノ酸が使われるようになったときに対応するための分岐鎖アミノ酸を中心としたアミノ酸の補給が目的となります。食事から効率よく摂取できているのであれば、サプリメントの活用は考えなくてもいいですが、試合では見えない敵である緊張や興奮にも対応しなくてはならないため、使用することは多くなります。試合の何日も前から緊張や興奮をしているようであれば、サプリメントを利用して補うといいでしょう。ただし使用量については、あくまで食事で補えない分として、過剰摂取は控えましょう。
試合期では、緊張や興奮からさまざまな症状が引き起こされます。そのなかに下痢と便秘があります。試合前になると、下痢や軟便になったり、便秘になったり、下痢と便秘を繰り返したりする人がいますが、最良のパフォーマンスをするにはどれも避けたいことです。
下痢の原因としては、緊張や興奮によるもののほか、胃腸のトラブル、感染症、食べ過ぎや水分のとり過ぎが考えられます。緊張や興奮による場合、出るだけ出してしまえば、治ることが多いです。その後、冷たい食べ物や飲み物をさけたり、食べ(飲み)すぎに気をつけたり、身体が冷えないようにしたりすれば、多くの場合再度下痢を起こすことなく試合に臨めます。緊張や興奮はコントロールできないので、試合前の心配材料になりますが、「出し切れば問題ない」と認識し、身体を冷やさないようにするなどの準備を整えればいいです。下痢が止まらないようであれば、試合前の食事のタイミングを工夫したり、医師の診察を受けて薬を処方してもらったり、電解質の欠乏や脱水にならにように水分を補給し続けなければいけません。
便秘は、試合先での食生活の変化や水分補給の状態から引き起こされることが多いです。対策としては、日々摂取している量と変わらない食物繊維を摂取するために野菜、果物をいつも通り食べることと、水分補給が少なくならないように注意することです。気にしすぎて、試合前に野菜や果物をいつも以上に食べるとガスが発生して、お腹が張ったような状況になるので、注意が必要です。例えば生野菜でなく温野菜は食物繊維の摂取量が多くなりやすいです。食べるかさは同じであっても、生野菜に比べて温野菜の方が総量としては多く食べることができるため食物繊維のとり過ぎで、お腹が張ったり、ガスが大量に出たりということになります。このようなことを踏まえて食事することでも便秘の予防はできます。