糖質・脂質・タンパク質の摂取に意識がいきがちですが、運動量が多くなるほどビタミンやミネラルも多く必要になります。野菜や果物だけでなく、さまざまな食材からのビタミン・ミネラルの摂取を意識したいです。
ビタミンの役割は多岐にわたります。ビタミンとパフォーマンスを考えるうえで、3つの柱があります。1つは、エネルギー代謝に必要なビタミンB群、2つ目は抗酸化作用について、3つ目が最近注目されているビタミンDです。
ビタミンB群は、エネルギー代謝の過程で起こる化学反応時の補酵素として、なくてはならないものです。エネルギー消費量が増加し、その分エネルギー必要量が多くなれば、比例してビタミンB群の必要量も多くなります。ビタミンB群は、水溶性ビタミンなので、摂取して必要量が満たされると余剰分は尿中に排泄されます。
このため、必要以上にビタミンB群のサプリを摂取したときには、尿が通常より黄色くなり、匂いも普段と違うことがあります。
運動によって体内への酸素摂取量が増加するに従って、活性酸素の生成も増加します。運動で酸素の必要量が増すと、エネルギー代謝が多くなった分、化学反応の道を外れてしまう酸素が出てきます。この酸素は、通常の酸素よりも不安定で、いろんな物質を酸化していくことから、活性酸素という名がつけられています。
また、活性酸素は運動以外にも、大気汚染、食品添加物、医薬品、電磁波、放射線、紫外線、ストレスなどでも生成されます。活性酸素は、免疫機能を発揮するというよい面もありますが、細胞内のDNAの損傷を引き起こしたり、過酸化脂質を生成したりして、細胞の機能を低下させることもあります。
このため身体は、活性酸素を速やかに除去する機能を持っています。この機能が、酸化を抑制するための抗酸化作用であり、この働きを担っているのが、抗酸化酵素と抗酸化物質です。抗酸化酵素には、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、キサンチン酸化酵素などがあります。抗酸化物質は、ビタミンC、カロテノイド、ビタミンE、グルタチオン(GSH)、尿酸、リポ酸などがあげられます。
運動する人は、活性酸素を発生させないように、酸素の摂取量を減らしてトレーニングすることができません。このため、抗酸化物質を積極的にとること、運動以外では活性酸素の発生を極力少なくすることで、できるだけ影響を小さくすることができます。
抗酸化物質を摂取するためには、バランスのよい食事をし、種実(ナッツ)類や果物、野菜の摂取量を意識するといいと思います。ただし、抗酸化物質の補給がパフォーマンスを高めるという報告はほとんどないので、抗酸化作用を目的にサプリメントを摂取することは考えず、食事からの積極的な摂取を進めましょう。
特に日本人は、魚介類の摂取量が欧米人に比べて多いため、多価不飽和脂肪酸の摂取量が多くなる傾向にあります。多価不飽和脂肪酸は、不安定な構造のため、酸化しやすいです。このことからカロテノイドやビタミンEなどの脂溶性ビタミンを食事でしっかりと摂取できるように、バランスを崩さず食べることが重要です。
ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収と代謝を調整している脂溶性ビタミンであり、骨代謝に強く関係します。最近では、ビタミンDとパフォーマンスに関する研究成果も多く目にするようになりました。
ビタミンDは紫外線B波(UVB)により活性型ビタミンDとなり、代謝に影響を与えることから、北欧など冬の間、日光に当たることができない地域や室内での活動が多い人への影響は大きくなります。ビタミンDの摂取が満たされていても、UVBの照射時間が少ない場合には、ビタミンDの欠乏状態となり、骨などに影響を与えることを知っておきたいです。さらに最近は、UVカットの化粧品や衣類によって、日光の照射下にありながら、UVBの照射量が満たされず、骨などへのリスクの増加につながる可能性が示唆されています。
ビタミンDは、摂取量に関する論文がたくさん出ていますが、考慮すべき要因も多く、食事摂取基準においても必要量を掲示せず、目安量(5.5μg)と耐容上限量を示すにとどまっています。
ビタミンDが多く含まれている食材とは?
ビタミンDは、魚と魚卵、卵に多く含まれています。きくらげや干ししいたけにも多く含まれますが、水に戻してから食べる量には限界があるため、期待は薄くなります。例えば、卵1個で約1.5μg、やや大きめの紅鮭の切り身(100g)で約33μgなので、1日1個は卵を食べて、鮭の切り身の1/7くらいを使っておにぎりを作ると、1日の目安量の5.5μgは摂取できます。しかし、魚をしっかり摂取する習慣がない場合には、5.5μgの摂取は難しくなります。できるだけ毎日魚をしっかり意識して組み立てたいですが、ビタミンDが添加されている乳製品などもありますので取り入れていくのもいいと思います。
ミネラルの働きは多岐にわたり、身体の活動の増加によってミネラルの必要量も高まります。また、減食や偏った食事によってミネラルの摂取量が少ない場合や消化・吸収の効率が下がった場合には、欠乏状態(必要量が満たされない状態)となり、身体のパフォーマンスに影響を与えることもあります。
例えば鉄は、体内の貯蔵鉄(体内の鉄の20~30%の鉄が臓器や筋肉などに蓄えられている)の量によって吸収率を変化させたり、カルシウム、マンガン、マグネシウムなどは「★受動拡散」と「☆能動輸送」という2つの方法を使ったりと、食事からしっかり摂取することで、身体は必要量を吸収できるようなシステムをもっていられると考えられます。
ミネラルの摂取量は、食事摂取基準の推奨量、目安量を参考にして、食事からの摂取を基本に組み立てる必要があります。
★:受動拡散とは物質が自然と高濃度側から低濃度側へと移動することで吸収されていく過程のことをいいます。
☆:能動輸送とは体内のエネルギーを使って、物質が能動的に吸収されていく過程のことをいいます。