バランスのよい食事が必要なのは、「生命維持と生活のため」、そして「新陳代謝のため」です。さらに子どもの場合には、「成長するため」が加わります。
ここでは”毎食”バランスよく食べてもらいたい理由として、知られていない新陳代謝について説明します。
まず、新陳代謝の仕組みから考えていきましょう。爪や毛、歯などを除いて、人の身体を構成する細胞はおおよそ3カ月以内に作りかえられます。細胞を作りかえる際に必要になるのが、エネルギーや栄養素です。いつどこの細胞が作りかえるかを知ることができれば、「これから〇〇を作りかえるからこれを食べよう」と行動ができます。例えば、「今日の午後に右目の眼球が作りかえられる」とわかっていたら昼食をバランスよく食べるかもしれませんが、実際に私たちはこのように作りかえを知って食べることはできません。このため、いつ、どこの部分で、作りかえが起こってもいいように、3食でまんべんなくエネルギーや栄養素を摂取しなくてはいけないのです。
さらに詳しく説明すると、例えば上腕二頭筋(力こぶの筋肉)が、10階建てのビル100棟でできているとします。そのうち1棟が古くなったので、建て直すことになった(新陳代謝)と考えます。
①解体工事をして更地にする→壊すのにエネルギー(糖質と脂質はエネルギー源、ビタミンはエネルギー代謝に必須)が必要です。
②新たにビルを建てる→鉄骨や釘、ネジなどの材料はミネラルとビタミン、コンクリートはタンパク質と考えることができ、建てるにはエネルギー(糖質と脂質はエネルギー源、ビタミンはエネルギー代謝に必須)が必要です。コンクリート(タンパク質)は、作りかえる前のビルから70%をリサイクルして、30%を摂取したタンパク質から新しくとりいれます。
③食事をして、五大栄養素がすべて揃っていて、必要量があれば、同じビルを建てることができます。
朝食を抜いた場合(昼食も夕食も考え方は同じ)、①、②で使うエネルギー源(糖質と脂質)やミネラルはある程度体内に保存ができ、ビタミンも半減期(代謝などで量が半減する期間)が半日なので、前日の夕食をバランスよく食べていれば、何とかなります。しかし、タンパク質は、朝食を食べていなければアミノ酸プール(遊離アミノ酸)の分しかなく、新しいコンクリートの30%分を補いきれません。
例えば、アミノ酸プールから10%補ったとして、リサイクルの70%と合わせても80%なので、10階建てではなく8階建てのビルになってしまいます。朝食を食べないということは、直接、筋肉に影響するのです。
100棟あるうちの99棟が10階建てであれば、1棟だけでも8階建てだったとしても、パフォーマンスに大きく影響したり、筋肉を触っても陥没していたりしないので、食べなくても問題ないと思いがちですが、朝食の欠食が長期間続けば、午前中の新陳代謝が影響を受け続け、それがその人の身体の特徴となります。
食事が偏る理由はさまざまです。好き嫌いがあり、日常的に特定の食品や食品群(例えば肉類全般)が食べられなかったり、たまたま忙しくて1食だけ偏ったりすることが考えられます。
このように日常的に偏る場合と単発的に偏る場合とがありますが、単発的に起こる場合には、前の食事(例えば昼食であったら朝食)が充実していれば、先に述べたように影響は少ないです。
日常的に偏る場合には、ある特定の栄養素が必要量を満たしていない状態が続くことになるため、ビルでいうと、そもそも構造上欠陥ビルになってしまいます。しかし、人間の身体は欠陥ビルにならないように回避しようとします。
その方法の1つは、欠陥ビルにならないように、栄養素の必要量が満たされていなくても、摂取できる量を基準に決めて身体を作ります。肉を食べることのできない人のタンパク質を例に説明すると、その他の食品から得られるタンパク質の摂取量を基準として身体作りをすることになります。偏食の人で痩せていて筋肉量が少ない人がいます。このような人は、運動したらタンパク質の必要量が増えてしまうので運動はしたくない、あるいはできません。こうして少ない筋肉量を維持しています。食べる量に従った身体作りといえます。
もう1つは、ある特定の栄養素が必要量を満たさないときに、食べることができるものから、その特定の栄養素を補おうとする方法です。例えば、肉を食べることができない人でタンパク質の摂取量が必要量に満たないときには、食べることができる(好きな)菓子でタンパク質を補おうとします。しかし、菓子は脂質と糖質は多いですが、タンパク質は少ないことから、欠けている分のタンパク質を補うためには、大量に菓子を食べることになります。これによりタンパク質は満たされますが、エネルギーが過剰となり太ります。偏食で太ってる人はこのパターンに当てはまります。
新陳代謝を行ううえでのもう1つの要素が刺激です。骨や筋肉は、刺激を受けることで新陳代謝量を決めると考えられている。先述のビルでイメージしてみましょう。
日々、ほぼ変わりなく上腕二頭筋を使っている場合、栄養状態がよければ、10階建てを壊して、10階建てを建てます。しかし、上腕骨を骨折してギプスをはめることになったら、いつも通りの刺激はなくなります。
刺激がなければ(使わないなら)、栄養状態がよくても、身体は10階建てを壊して10階建てを作る意味がないと判断をします。そこで刺激が入るまでの期間、例えば7階建てで建てかえることになります。ギプスをぴったりのサイズで作ったのに、日を追うごとにゆるくなるのは、建てかえのたびに10階建てを7階建てにしていったからだと考えることができます。
ケガをしたりして今まで動いていた分が動けなくなってしまったり、運動をやめて身体の活動量が減ってしまったりすると、3カ月後にはすかっり筋肉が落ちてしまった、などという経験談を聞くことがあると思いますが、この話でそれが理解していただけたと思います。
バランスのよい食事とは、「食事の内容が整っていること」「自分にとっての適正量をとること」の両方を成立させる必要があります。食事の内容を整えるには「食事構成」と「食材選び」を考えなくてはなりません。もし、食べて得られたエネルギーや栄養素の量が、適正量以下であるならば低栄養状態になり、逆に適正量以上の場合には過栄養状態となるため注意が必要です。
食事構成と補食と間食
バランスのよい食事を考えるときには、1食ごとに整えるべき部分である「食事構成」と1日で整える部分である「食材選び」があります。
まず栄養素と食品の関係について知っておきたいのは、1つの栄養素しか持っていない食品はないということです。食品はさまざまな栄養素の集合体であり、多くの種類の食品を食べることで、自然とさまざまな種類の栄養素が身体に吸収されます。食品の選び方がわかれば、身体に過不足なく栄養素を補給することができるのです。
毎食整えたいポイントは、主食、主菜、副菜2皿、牛乳・乳製品、果物という6つをそろえることが食事の基本となります。とはいえ、必ずしも6皿必要なわけではなく、料理によって例えば肉野菜炒めや酢豚は主菜と副菜を、カレーライスは主食、主菜、副菜を、クリームシチューは主菜、副菜、牛乳・乳製品を兼ねると考えることができます。重要なのは品数ではなく、主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物が入ってることなのです。
例えば、鍋は最後にごはんを入れて雑炊などにした場合、主食、主菜、副菜がすべて入っています。最後にフルーツ入りヨーグルトを食べれば、それだけでバランスのよい食事になります。コンビニでも例えば卵とツナのサンドイッチ(主食と主菜)、ポテトサラダとレタスのサンドイッチ(主食と副菜)、野菜ジュース(副菜)、ヨーグルト、バナナ(果物)といった具合に整えられます。
外食して、「唐揚げ定食を食べたら、野菜が少ないし、乳製品もない」場合、「食後にコンビニに寄って野菜ジュースを買って飲むか!小腹が空いたらヨーグルトでも食べるかな」といった具合に、1回の食事で整えられなかったら、あとから足して整えるのもありです。堅苦しく考えずに、これは主食、これは主菜と副菜、というように整え方の「バランス感」を養って実行していくことが大切です。
主食
ごはん、パン、めん類などを主材料とする料理のこと。身体の主たるエネルギーとなる炭水化物(糖質)が豊富で、タンパク質も含まれます。
主食の量が少なすぎると、生きていくうえで重要なエネルギー源となる糖質の摂取が少なくなるため、身体は本能的に甘いもので不足分を補おうとします。菓子を食べる量が多く、やめられない人は、主食をしっかり食べているかどうか、見直しましょう。ただし、食べすぎると脂肪となって身体に蓄えられるので、適正量を食べることが大切です。
主菜
肉類、魚類、卵類、大豆製品が使われているメインのおかずのこと。身体を作るもとになる良質のタンパク質が含まれています。主菜を食べることにより、タンパク質だけでなく、さまざまなビタミンやミネラルをとることができます。ただし、主菜として、メイン料理を2品食べる必要はありません。タンパク質は身体作りや発育・発達に欠かせない栄養素の1つですが、たくさんとったからといって筋肉が多くつくられるわけではありません。食べ過ぎるとタンパク質の分解と排泄のために肝臓と腎臓に負担がかかるうえに、一部分は脂肪として蓄えられてしまいます。適正量を食べるように意識しましょう。
副菜
野菜類、キノコ類、イモ類、海藻類などを主材料とする料理のこと。身体の調子を整えるビタミン・ミネラル、食物繊維などが豊富に含まれています。
野菜には、色の薄い淡色野菜と色の濃い緑黄色野菜がありますが、毎食、淡色と緑黄色の両方を食べたいです。キノコ類、イモ類、海藻類は、それぞれ毎日1種類以上は食べるようにしましょう。
牛乳・乳製品
カルシウム、タンパク質が豊富に含まれています。ヨーグルトやチーズなどの発酵食品もおすすめです。多くとる必要はありませんが、毎日とりたいです。
果物
糖質、ビタミン、ミネラルが含まれています。ただし、エネルギー量が多いため、食べ過ぎには注意が必要です。
エネルギーや栄養素を3食でとりきれなかった場合には、補食を加えます。また、練習の終了時刻の関係から夕食の時間が遅くなる場合には、間食を入れて、練習中にエネルギーや栄養素が不足した状態にならないようにします。通常、間食とは、寝ているとき以外で食事と食事の間隔が6時間以上あく場合に、足りなくなると考えられる糖質を中心に摂取できるよう、先に補助的に食べることをいいます。あとの食事で、その分差し引いて食べる。例えば、練習のために夕食が遅くなる場合、夕食の一部分(主に主食)を間食として練習前に食べ、夕食では、間食で食べた分を減らして食べます。つまり、1日の食べる総量は変えずに間で食べる食事です。
しかし成長期のアスリートの間食は、夕食の時間が遅くなるために食べるだけではなく、3食ではとりきれない分のエネルギーや栄養素を補う補食の意味を持ちます。この場合、夕食では、間食分を減らさずに食べます。
食事構成の内容を決める過程に、食材選びがあります。食材選びの基本的な考え方は、下記の①~⑥にまとめました。
①タンパク質源となる食品は、「肉類(ソーセージやハムなどの加工食品も含む)」「魚類(かまぼこやツナ缶などの加工食品も含む)」「豆・豆製品(納豆・豆腐など)」「卵類」「牛乳・乳製品」の大きく5つに分類することができます。
朝・昼・晩、それぞれに1食に、これらの分類から3つ以上選び、さらに、3食(1日)ですべての分類から少なくとも一度は食品から摂取できるようにします。アスリートの食事構成として、毎食、牛乳・乳製品をとることとしているので、そのほかの4分類から、毎食2つ以上とれるようにするといいでしょう。
タンパク質を多く含む食品には、タンパク質以外のビタミンやミネラルが豊富に含まれていることから、いろいろな種類の食品を食べると、タンパク質以外の栄養素も充足します。ただし、食べ過ぎには注意が必要です。
②脂肪(油)は、体重減少などの課題がない場合は、適量を食べているのであれば問題ないですが、疲れているときに油を大量に摂取すると、消化に時間がかかり、内臓も疲れてしますので注意したいです。
③炭水化物は、穀類(米、小麦、そば)に多く入っています。エネルギー源の中で最も必要とされる栄養素であるので、毎食必ず食べましょう。
④野菜は、色の淡い野菜(キャベツ、キュウリ、レタスなど)と色の濃い野菜(ホウレン草、ニンジン、ピーマンなど)に分類できます。1日で食べる目安量は、色の淡い野菜の場合、生の状態で5種類以上を両手に1杯分以上、色の濃い野菜の場合は火の通った状態で3種類以上を片手に1杯以上食べましょう。
⑤海藻類・キノコ類、イモ類は1日それぞれ1種類以上食べられるのが理想です。