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体温調節と脱水

体内に存在する水分の総量は、成人の場合、体重の約2/3(60%程度)を占めます。

生まれた時は80%程度ですが、成長して体温調節や水分代謝の機能が備わってくるにつれて、成人と同程度になっていき、高齢者になると筋肉量の減少などにより、40%~50%程度になります。赤ちゃんは不測の事態に備えて、水分の貯えを多くして対応しようとしていますが、体温調節の機能が著しく劣っているため、少しでも環境などが悪い状況になったときには生命に関係する事態になってしまいます。

体内の水溶液を総称して「体液」といいます。体内の水には「溶解作用」「運搬作用」「体温保持」の3つの役割があります。溶解作用とは、物質を水に溶かすことを指します。これは体内での化学反応をするうえで必要になります。運搬作用とは、血液やリンパ液などによって水を移動させることにより、体内において物質(老廃物や栄養物質)を運搬することを指します。また、水は比熱が大きいため、気温や室温が低下しても体温はすぐに下がりません。一方体温が高くなると皮膚から汗を出し、気化熱を放出して効率的に体温を下げる。これが体温保持の作用です。

汗をかいて体温を下げる仕組み

汗をかくことによって皮膚の表面が冷えると、その下を流れている血液の温度が下がって、その血液が全身をめぐって、体温を下げます。これが汗をかいて体温を下げる身体のシステムです。私たちの身体は、局所だけ動かしていてもそこだけに汗をかくわけではありません。例えば、腕を動かしたときに腕だけ汗をかくのではなく、全身で汗をかいて全身を濡らし、風が当たることで皮膚表面が冷え、血液の温度を下げて、体温を低下させます。

運動時にはエネルギー代謝が亢進するため、大量の熱が産生されます。もしもこの熱を体外に放散しなければ、体温が上昇し続け、熱によって体内のタンパク質に変性が起き、酵素(タンパク質でできている)や筋肉などの体タンパク質が障害を受け、死に至ることもあります。体温が上昇すると、運動機能が維持できなくなるだけでなく、身体が正常に機能しなくなります。

有効発汗と無効発汗

発汗には有効発汗と無効発汗があります。汗が地面に流れ落ちたり、タオルで拭きとってしまったりすると、汗を蒸発させることができず「無効発汗」になります。皮膚に流れている汗が蒸発して体温の低下に貢献した場合は「有効発汗」になります。

下の表には、体重当たりの水分損失率と現れる主な症状を載せました。

水分損失率 主な症状
1% 大量の発汗、のどの渇き
2% 強い渇き、めまい、吐き気、ぼんやりする、重苦しい、食欲減退、血液濃縮、尿量減少、血液濃度上昇
3% 汗が出なくなる
4% 全身脱力感、動きの鈍り、皮膚の紅潮化、イライラする、疲労及び嗜眠(半ば眠ったような状態)、強い吐き気、精神不安定、無関心
6% 手足のふるえ、ふらつき、熱性抑うつ症、混迷、頭痛、熱性困ぱい、体温上昇、脈拍・呼吸数の上昇
8% 幻覚、呼吸困難、めまい、チアノーゼ、言語不明瞭、疲労増加、精神錯乱
10~12% 筋痙れん、ロンベルグ徴候(閉眼で平衡失調)、失神、舌の膨張、興奮状態、不眠、循環不全、血液濃縮及び血液減少、腎機能不全
15~17% 皮膚がしなびてくる、飲み込み困難(嚥下不能)、目の前が暗くなる、目がくぼむ、排尿痛、聴力損失、皮膚の感覚鈍麻、舌がしびれる、眼瞼硬直
18% 皮膚のひび割れ、尿生成の停止
20%以上

生命の危機、死亡

体内の水分が1%失われただけでも「のどが渇いた」と感じます。

2%失うと「ぼんやりする」などの意識症状も出てき始めます。

3%で汗が出なくなるのは体温保持(汗をかいて気化熱によって体温を下げる)のためだけに汗をたくさんかいて体内の水分を放出すると、溶解作用や運搬作用のために使える水が少なくなり、正常に機能しなくなることから、汗をかいて体内の水分を失うことをストップしていると考えられます。

この時点で水分補給をすれば重篤な状態にならずにすむことが多いですが、水分補給をせずに水分損失が4%以上に達すると、通常の状態では動くことができなくなります。この症状は体温が高い状態を維持しないように、あるいは、上昇し続けないように、体の動きを制御していると考えられる。

例えばこんな経験はありませんか?

運動中に給水するのを忘れていて、運動後にのどが渇いていたことを感じて給水したら、動いていないのに急に汗が出てきたという経験です。これは水分損失率が3%を超えたために発汗がストップしていて、水分が補給されたことで体温を下げるために発汗が始まったと考えられます。気づかないうちに、発汗がストップした状態になっていることもあるのです。夢中になって運動や屋外で作業することは悪くないことですが、給水を定期的にすることを忘れずに習慣化することが必要になります。

精神性発汗

精神性発汗は緊張や興奮による発汗のことをいいます。この発汗による汗は、毛穴とともにあるアポクリン腺(身体の限られた部分にあって、特にわきの下に多く分布しておりニオイの元となる成分を多く含んだ汗を出す腺)から分泌され、水と電解質だけでなく脂質なども含まれる「サラッとしない汗」です。手のひらや足の裏、脇、陰部などから多く出てきます。体温の上昇がなくても緊張や興奮によって出てきます。例えば、大勢の人の前で緊張して話したときに、手に汗をかいたり、脇から汗が出てきた経験があると思います。緊張したときには唾液の種類も変わって、サラッとした唾液ではなくネバついた唾液が出てくることから口の中が渇いたような状態になります。緊張した場面では、体温保持の発汗にプラスして精神性発汗も加わって普段よりも発汗量が多くなる可能性があるので、普段よりも水分補給を気をつけなければいけません。

その他に、辛い物を食べたときに起こる「味覚性発汗」による発汗もあります。

汗だけで失われるわけではない!1日の水分出納

成人における水分の出納量を載せました。

摂取量(ml) 排泄量(ml)
食物 1000 尿・大便 1600
飲水 1200 不感蒸泄 900
代謝水 300
合 計 2500 合 計 2500

成人(体重70㎏程度)の場合、1日中安静にしているときの水分摂取量は1日で約2500㎖、排泄量も約2500㎖と言われています。水分摂取として食物、飲水、代謝水、水分排泄として尿、大便、不感蒸泄があります。不感蒸泄とは、肺からの呼吸に伴う水蒸気としての排泄や皮膚からの汗としての排泄など、意識することなく常に肺や皮膚から排泄される水分のことです。

上の出納量の表からもわかるように、安静を保持していたとしても、呼吸しているだけで(不感蒸泄)で水分を1ℓ失っているのです。身体活動の増加によって汗をかくだけではなく、呼吸数が増えることによっても水分を失います。運動量が多くなったり、強度が大きくなったりするほど、呼吸が荒くなり、体温も高くなって汗をかき体内の水分を失います。これが脱水です。

代謝水は、主に糖質や脂質が体内で代謝されると生じる水のことをいいます。運動することで体温が上がって水を余分に必要としますが、エネルギーを体内で産生すれば水を作り出すこともできます。気温や湿度、また運動強度が大きくなくて水分を失う量が少なく、水を生産する量と平衡している場合には、脱水はしません。

暑くない日にたくさん歩いても、そこまでのどが渇かないのは、失った水分と体内で産生された水分がだいたい同じ量だからと考えることができます。

機能が未熟だからこそ気をつけたい!子どもの脱水

子どもは、成人に比べて脱水しやすいです。理由は、体温調節機能や水分の代謝機能が成人よりも劣っているからです。さらに子どもは身長が低いために、成人に比べて体表面積が少なく、放熱しづらいと考えられます。身長が伸びるにしたがって体表面積は大きくなり、放熱しやすい状態になります。

そのうえ子どもは成長のために代謝がよいので基礎代謝量が高く、安静時でもエネルギー代謝が活発に働きます。エネルギー代謝が高まれば、体温が高くなります。体温を一定に維持するために頭部や胴体部分の皮膚血流量を多くして汗をかいて体温を下げようとします。赤ちゃんが常にしっとりしているのはこのためです。子どもは水分の貯蔵量を多くして体温の上昇に対応しようとしているものの、発汗機能や体温を下げるための血管調節の機能が大人より未発達のため、汗だけでは体温を低下させられないのです。

そこで、頻繁に休憩を入れたり、暑いときの運動は避けたりと環境面を整える必要があります。脱水症状は、成人では体重の2~4%の水分が不足すると顕著な症状が現れ始めますが、小児の場合は体内の水分量が多い分、5%ほど不足してから症状が出ます。

子どもは、大人が耐えうることでも、耐えることはできません。気温や湿度が高いなどの環境の変化にも対応できません。屋内も屋外も車内も関係ありません。運動中の場合、大人は体重2%分の水分を飲もうとしたら、体重60kgの人は1200㎖を飲まなくてはならず、なかなか飲み切ることは難しいです。このため7割くらいを飲むことが推奨されますが、体重25㎏の子どもの場合には、500㎖飲めば2%の脱水を回避することができます。成人よりも子どもの方が脱水は予防しやすいのです。

シニア期の水分補給について

運動だけでなく、活発に動いていない人でも熱中症になることがあります。特にシニア期の人は、頻尿となり、飲むと尿意の頻度が多くなると思い、水分をとらなくなって脱水しやすいです。また暑さを感じにくく、口渇感が起きにくく、飲んだ時にむせるの嚥下障害があるといったことから、水分の摂取量が少なくなり、熱中症になりやすいです。あまり動くことのない高齢者の場合は急激に脱水状態になることは少なく、少しずつ脱水が進んでいきます。動かないから脱水することはないと考えるかもしれませんが、呼吸するだけでも1日1ℓの水分を失います。水分を飲む量が少なければ、その分が毎日脱水することになります。

例えば1日0.2%程度の脱水をしたとしても、それだけでは問題はありませんが、10日程度続くと2%の脱水となり、なんとなく不調を感じるようになります。それでも放置して2週間以上その状態が続くと約3%の脱水となり、熱中症になります。少しづつ脱水していくため、本人も周囲も気づきにくく、脱水を見落としてしまうのが問題となります。シニア期は自分で口喝や暑さを感じにくいので、本人も周りも意識して水分補給に取り込むことが大切です。

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